谷崎潤一郎作品映画化一覧

<サイレント>

題名 公開年月日 監督 脚色 主演
アマチュア倶楽部 1920.11.19 栗原トーマス 谷崎潤一郎 葉山三千子
上野久雄
葛飾砂子 1920.12.28 栗原喜三郎 谷崎潤一郎 上山珊瑚
豊田由良子
雛祭りの夜 1921.3.30 栗原喜三郎 谷崎潤一郎 谷崎鮎子
葉山三千子
蛇性の淫 1921.9.6 栗原喜三郎 谷崎潤一郎 高橋英一
紅沢葉子

 以上、4作品は谷崎が1920年(大正9年)に大正活映設立に際して、文芸顧問に就任、脚本などで映画製作に関与して公開されたものである。大正活映は、神奈川区子安を埋立て、アサノセメントを創始した経済界の大物浅野総一郎をオーナーとして、次男の良三が資本金2万円で創立した会社である。
 1910年代初頭には日活が我が国における本格的な映画会社として活動を開始し、演劇実写映画の製作に乗り出していたが、後発の松竹、大活(大正活映)は純映画劇運動に呼応して、映画の演劇(歌舞伎、新派など)からの独立、海外市場の開拓を画した。松竹は松竹キネマ合名会社を創立させるとすぐに、小山内薫を校長に松竹キネマ俳優学校も創立、蒲田に撮影所を開所している。大活もまた、アメリカの俳優学校出身の栗原トーマス(喜三郎)を監督に迎えて、文芸顧問の谷崎と組ませた。その後、大活は財界不況の影響を受けて、新派映画の製作に転じ、更に1922年(大正11年)には製作そのものを中止、外国映画輸入を主な業務として、松竹に吸収された。栗原トーマスは、それから4年後に死去している。  
 大活時代の4作品中、「アマチュア倶楽部」「雛祭りの夜」は谷崎の書き下ろし、「雛祭りの夜」に関しては、一部、谷崎も監督をしている。「葛飾砂子」は泉鏡花、「蛇性の淫」は上田秋成の原作である。  
 「アマチュア倶楽部」(「避暑地の出来事」改題)は、ハリウッド風の喜劇であり、鎌倉由比ヶ浜で湘南ボーイが戯れているシーンで始まるが、そこに水着姿の葉山三千子が現れて、遊び人どもの視線を釘付けにするというところから、大正時代の「太陽の季節」という具合に思えなくもない。キャストには、まだ高橋英一を名乗っていた岡田時彦や谷崎千代、鮎子親子、そして谷崎自身もヒッチコックさながらに、煙草を燻らせている横顔をスクリーンに映し出していたらしいが、そのフィルムは残念ながら現存していない。また面白いエピソードとしては、1921年(大正10年)、「蛇性の淫」のロケ旅行で京都、大和地方を訪れてから、上方が好きになったらしく、「旧き日本をエキゾティズムとして愛する」(「東京をおもふ」より)と谷崎自身が語っているように、現実の関西というよりもむしろ、深層の失われた楽園としての関西を幻視していたと考えるほうが、現在の我々の位置から谷崎にアプローチする上で有効性があると言えるだろう。
  

題名 公開年月日 監督 脚色 主演
おつやと新之助 1922.9.28 中川紫郎 中川紫郎 実川延松
嵐笑三
本牧夜話 1924.9.5 鈴木謙作 鴇田英太郎 林正夫
洒井米子
お艶殺し 1925.10.15 阪田重則 阪田重則 出雲美樹子
森栄治郎
 
<トーキー>
題名 公開年月日 監督 脚色 主演
お艶殺し 1934.11.15 辻吉朗 富士見明 黒田記代
尾上菊太郎
お琴と佐助(春琴抄) 1935.6.15 島津保次郎 島津保次郎 田中絹代
高田浩吉
お市の方(盲目物語) 1942.9.10 野淵昶 野淵昶 大友柳太郎
荒木忍
痴人の愛 1949.10.16 木村恵吾 八田尚行 宇野重吉
京マチ子
細雪 1950.5.13 阿部豊 八住俊雄 花井蘭子
轟夕起子
お艶殺し 1951.2.17 マキノ雅弘 依田義賢 市川右太衛門
山田五十鈴
お遊さま(蘆刈) 1951.6.22 溝口健二 依田義賢 田中絹代
乙羽信子
お国と五平 1952.4.10 成瀬巳喜男 八住俊雄 木暮実千代
大谷友右衛門
春琴物語 1954.6.27 伊藤大輔 八尋不二 京マチ子
花柳喜章
乱菊物語 1956.1.22 谷口千吉 八住俊雄 池辺良
八千草薫
猫と庄造と二人の女 1956.10.9 豊田四郎 八住俊雄 森繁久弥
山田五十鈴
細雪 1959.1.14 島耕二 八住俊雄 轟夕起子
京マチ子
1959.6.23 市川昆 和田夏十
長谷部慶
市川昆
中村鳫治郎
京マチ子
痴人の愛 1960.4.17 木村恵吾 木村恵吾 船越英二
吐順子
お琴と佐助 1961.10.14 衣笠貞之助 衣笠貞之助 山本富士子
本郷功次郎
瘋癲老人日記 1962.10.20 木村恵吾 木村恵吾 山村聡
若尾文子
台所太平記 1963.6.16 豊田四郎 八住俊雄 森繁久弥
淡島千景
白日夢 1964.6.21 武智鉄二 武智鉄二 路加奈子
石浜朗
1964.7.25 増村保造 新藤兼人 若尾文子
岸田今日子
紅閏夢 1964.8.12 武智鉄二 武智鉄二 茂山千之丞
川口秀子

<没後>
題名 公開年月日 監督 脚色 主演
悪党 1965.11.21 新藤兼人 新藤兼人 小澤英太郎
岸田今日子
刺青 1966.1.15 増村保造 新藤兼人 若尾文子
長谷川明男
堕落する女(愛すればこそ) 1967.6.28 吉村公三郎 新藤兼人 桑野みゆき
細川俊之
痴人の愛 1967.7.29 増村保造 池田一朗 安田道代
小沢昭一
鬼の棲む館(無明と愛染) 1969.5.31 三隅研二 新藤兼人 勝新太郎
新珠三千代
おんな極悪帖(恐怖時代) 1970.4.4 池広一夫 星川清司 安田道代
田村正和
1974.5.4 神代辰巳 神代辰巳 観世栄夫
荒砂ゆき
春琴抄 1976.12.25 西河克巳 衣笠貞之助
西河克巳
山口百恵
三浦友和
ナオミ(痴人の愛) 1980.3.15 高林陽一 高林陽一
今戸栄一
水原ゆう紀
斉藤真
白日夢 1981.9.12 武智鉄二 武智鉄二 佐藤慶
愛染恭子
華魁(人面疽) 1982.2.19 武智鉄二 武智鉄二 親王塚貴子
伊藤高
1982.3.12 横山博人 馬場当 樋口可南子
高瀬春奈
1983.12.24 木俣尭喬 木俣尭喬 岡田真澄
松尾嘉代
細雪 1983.5.12 市川昆 市川昆
日高真也
佐久間良子
吉永小百合
刺青 1984.12.22 曽根中生 那須真知子 伊藤咲子
沢田和美
鍵(イタリア映画'84) 1984 ティント・ブラス シルヴァーノ・イッポリティ S.サンドレッリ
F.フィンレイ
卍ベルリンフェア
(伊.西独'85)
1985 リリアナ・カバーニ リリアナ・カバーニ
ロベルタ・マッツオニ
グドルン・ランドグレーベ
ケビン・マクナリー
 
 以上、映画化一覧は「映画と谷崎」(青蛙房、千葉伸夫)を参照した。それ以外にも、私の調査したところ、'72年に春琴抄をATGが映画化した 「賛歌」(監督・脚本:新藤兼人、主演:渡辺督子、河原崎次郎)と、'97年の「鍵」(監督:池田敏春、脚本:白鳥あかね、香川まさひろ、池田敏春、 主演:榎本明、川島なおみ)の2作品が発見されたので、ここに追加する事とする。

 後日、下記の作品が新たに発見されたので、一覧に追加する事とする。
 なお、原作は谷崎潤一郎「白日夢」であり、同監督作品「白日夢」の続編として制作された。
「白日夢2」1987.2.7 グローバル制作、監督・脚本 武智鉄二、主演 愛染恭子、霧浪千春、速水健二