奥野、猪瀬の三島理解は「金閣寺」において対立する事となるのですが、面白い事に「鏡子の家」を評価する少数意見を二人で支えると言う事になるのです。二人にはそれぞれ、戦後派文学批判と日本の官僚制批判という問題が背景にあって、そこから三島という記号が再構成され、一つのシンボルとして結実しているのでしょう。
三島は「仮面の告白」によって、そのフィクショナルな生涯の起点とした、というのは松本健一の「三島由紀夫亡命伝説」に見られる解釈でありますが、この作品が「人間失格」を意識して創作されたとする批評家に奥野健男と猪瀬直樹がいます。奥野は太宰の全作品が滅んでも「人間失格」は永遠に読まれるだろうとし、文壇はおろか社会から抹殺される事も厭わない真実の告白、書いてしまった以上もう生きてはいられないような魂のバイブルとして、この作品を絶賛して止まない訳ですが、三島が「人間失格」を読んで同類相憐れむとも言うべき共感を得て、「仮面の告白」創作の動機としたのではないかという仮説のもとに、「三島由紀夫伝説」の論理を展開しています。いわば奥野の脱文学的な内的必然性の書物と言えるでしょう。ですから、命と引き換えに初めて書けるような「仮面の告白」を書いてしまった三島がいかに生きたかという関心が、この作家との18年間に及ぶ交流を支えた、と回顧しているんですね。
奥野は三島が太宰の文学的問題を継承しているという認識から、戦後派とは対立的立場にある作家と位置付けています。「仮面の告白」以前の三島は異端的なマイナー,ポエットであり、もし大蔵省での官僚生活を持たずに学生からそのまま有名作家になっていたら、堀辰雄の亜流ハイカラ抒情作家で終っていただろう、近代官僚制=日常性の中で自分が普通ではない怪物であるという違和感を抱いて、「仮面の告白」を書く決意を固めたからこそ大蔵省を辞めるに至ったのだ、まさにその時にライバルともいうべき太宰の自殺と「人間失格」を知って、嫉妬し、それを超える事を目標とした、というように、そこまで奥野の筆は滑りに滑って、ほとんど断定的に仮説を伝説として語りつづけています。
このように理科系人間の信仰告白というのは、どこかチャーミングなものがあります。
一方で、三島の自殺によって文学の終焉を実感、作家志望を断念した猪瀬直樹は「仮面の告白」をマーケティングリサーチによる成功例として、彼独特の文学論を展開しています。太宰の命と引き換えにベストセラーとなった「人間失格」が懺悔録であった事から、自分にもまた懺悔に値する内面的問題があるはずだと三島は倒錯的性愛の世界を捏造した、と言う事が、三島の独身時代の異性遍歴(?)や同性愛文献の研究、某心理学者を訪問しての自己分析,等の経緯を取材して、自らの仮説にリアリティを与えようとノンフィクション的手法を駆使して、追及しています。また終戦後の焼け跡では進駐軍の解放ムードから性的通俗本が氾濫していたという時代背景もあって、私小説を逆手に取った性的倒錯者のスキャンダラスな手記と言う事であれば、ベストセラー間違いなし、と三島は睨んだというものです。
(^^♪さん、随分久しぶりの書きこみになってしまいました。先月の末頃より、私のパソコンが、とてもネットできるような状態でない蝸牛のような速度になって、どうしたものか考えあぐねていたところ、パソコン情報に明るい私の友人たちよりの福音がありました。デフラグとスキャンディスクを3〜4
日に渡って繰り返したところ、見事に蘇りを果たしたのです。小笠原35周年もあり、テレビ開局50年、007 シリーズスタート20年と様々な記念があるようです。
(^_-)-☆さん、引越しするとネット環境が失われるのですか?田舎でもかっこよく車を乗りこなし、周囲にいる人全てを脇役に買えてしまうようなファッションに身を包んで、こちらの掲示板に入国していただけるとうれしいです。イケメンで少し貧しいというのが、太陽がいっぱいの時代からセクシーな男の類型だったりします。そういう男をペットみたいに助手席に乗せて、颯爽と車を走らせる(^_-)-☆さんを是非見てみたいものです。
●スタッフAまたは色男NO.121) 題名:ご挨拶とお礼まで
はい、みなさん、当コーナー掲示板開始以来、なかなかの盛況ぶりのようで、私こと色男NO.1がスタッフ一同に成り代わりまして、誠に厚く御礼申し上げる次第であります。「ザ・ラスト・パラダイス」と致しましては、当コーナーすなわち文学の国は教育の国に続いての2番目の誕生ということになりまして、記紀神話になぞらえますならば、国生み神話は最初の淡路島(オノコロ島)の次なる大八島という具合かしらんと思われますが、おそらく、後々になりますと、「ザ・ラスト・パラダイス」天地創造の神、救い主=最終教祖がその御姿をお見せになると予想されますので、まずは乞うご期待というところであります。
さて、それではさっそくでありますが、皆様に今月のお勧めの本とまいりましょう。
この3月にはいってから、一般書店店頭に並んでいるテリー伊藤氏の「君は長嶋茂雄と死ねるか」(主婦の友社、定価:本体1300円)という本なんですが、入国者の皆さんの中には大のプロ野球ファン、特に巨人ファンの方は多勢いらっしゃることと思いますが、なかなかどうして、この本、文学とプロ野球の相関関係を巧みに暗示させてありまして、大いに参考になる一冊なのです。
大相撲がさしずめ古典なら、正岡子規に始まる「野球」は近代文学というところでしょう。高橋源一郎氏の三島賞受賞作に「優雅で感傷的な日本野球」がありますし、東大総長蓮實重彦氏は知る人ぞ知る野球評論家でもあるのですよ。阪神タイガース野村監督はなんだか怪しいぞと思っていたら、やっぱり太宰の「富嶽百景」を読んで、あの有名なひまわりと月見草の物語(!)を案出されたようなのです。
今回は皆さん、是非とも太宰の「花吹雪」(「津軽通信」新潮文庫に収録)と併せてテリー氏の著作を御読みください。長嶋茂雄は生きた宮本武蔵である、なんてきっと吉川英治先生もビックリなさいますぞ。文学は文学のみにあらず、あらゆる現象、すべて文学的に考察すべし、これが今月の訓示であります。
あぁ、ありがたや、ありがたや。
追記:他の国々も続々と誕生していきますので、楽しみにしていてくださいね。
投稿日 : 99年3月22日(月)15時03分